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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第95回:多様なソースから情報・知識を集める(その10)
情報・知識の『源』を多様化する(9):分野軸-非重要顧客: ラガード

(2014年12月1日)

 

セミナー情報

 

今回は、『非』重要顧客中で、ラガード(英語ではlaggard:遅れる人という意味)、つまり新製品が上市された後一番最後に購入する層から情報・知識を集める活動ついて議論をしたいと思います。

●ラガードの特徴

ラガードは、市場では多くの顧客がその有用性を認め新製品を購入するようになっても、その流れに抗しかたくなにその購入を拒否する層ですので、何等かの拒否理由を持っています。また、拒否理由を持つような顧客ですので、中にはある種の信念や考えを持ち、それを主張する傾向の強い顧客が存在するということです。

拒否理由については、それが他のラガードと共通的なものであれば、ラガード向けの製品を企画・開発するということが考えられますし、その拒否理由がマジョリティの顧客も持つようなものであれば、マジョリティの顧客にもアピールし、大きな市場を対象とすることができます。

また信念を持つという特徴は、購入時期においては正反対の位置を占めるライトハウスカスタマー(別名イノベーター)と共通するものです。両者の違いは、ライトハウスカスタマーが新もの好きであるのに対し、ラガードは新もの嫌いであるという点です。したがって、ラガードの顧客にインタビューを行うことで、際立った意見を聞け、その中に興味深い発見をすることができる可能性があります。

前回でも触れましたが、市場の大半を占めるマジョリティは、自分達のニーズについて明確な答えを持っていない可能性は高く、むしろこのラガードの方が潜在的にマジョリティを代表するような情報・知識を集める目的からは有用であると言えます。

●ラガードの活用の例:

東急グループのケーブルテレビ・インターネットプロバイダーに、イッツコムという会社があります。イッツコムは東京・神奈川地区の東急線沿線を中心にケーブルテレビネットワークを保有している企業ですが、そのインフラを利用して様々なインターネットに関連するサービスを提供しています。そのサービスの中に、「インターネットとことんサポート」があります。

このサービスは月500円で、パソコン、メール、無線LAN、プリンターなどの設定に関し、顧客画面を共有しながらの遠隔サポートや、実際の顧客を訪問(無料)してのサポートも行っています。お年寄りや、会社や事務所でパソコンの利用経験のない主婦などにとっては、パソコン回りの設定は大変面倒なもので、これらのラガードの顧客にとっては、この面倒さがPCやインターネットの妨げになっていました。

しかし、これらのパソコン回りの設定は、ある程度のITリテラシーのあるマジョリティの顧客にとっても、これまで時間を掛ければなんとか苦労しながらもできてしまうものでしたが、実は彼ら彼女らにとってもフラストレーションの溜まる作業です。

つまり、イッツコムのパソコン等のサポートサービスは、ラガードにとっては顕在化したニーズであったわけですが、マジョリティにとっても潜在化していたニーズでした。まさにイッツコムは、このラガードの顧客で顕在化していたニーズを捉えました。どうイッツコムがこのラガードの顕在ニーズを捉えたかについては、想像ですが、従来お客様窓口での相談に、お年寄りや主婦からの同じようなニーズを示す問合せが多かったということではないかと思います。イッツコムは、そのラガードでとらえたニーズに基づき、ラガードだけでなく、マジョリティに対象を広げたサービスを展開した訳です。

(浪江一公)