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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第93回:多様なソースから情報・知識を集める(その8)
情報・知識の『源』を多様化する(7):分野軸-非重要顧客:ライトハウスカスタマー

(2014年11月4日)

 

セミナー情報

 

前回は、「情報・知識の『源』を多様化する」の中の、顧客、そしてその中の既存の『重要』顧客を対象とした議論をしました。今回は『非』重要顧客の議論をしたいと思います。

○『非重要顧客』とは何か?
営業の視点からは、自社製品を定常的に沢山買ってくれる顧客は『重要』です。一方、沢山買ってくれない顧客は、通常手間ばかり掛り、重要とは考えません。このような顧客を、ここではそのまま『非重要』顧客と呼んでいます。しかし、『非重要』こ顧客であっても、テーマ創出に向けての情報・知識源としては重要な顧客は多いものです。

既にこれら『非重要』顧客と関係を持っていることだけでも、それは自社の資産です。営業を担当した方であればわかると思いますが、顧客との関係を作り、少額であっても受注にこぎ付けるには大きな労力とコストを必要とします。このように労力とコストを掛けて構築した関係を、製品アイデアの創出のための情報源としても使わない手はありません。

情報の活用の面からは『非重要顧客』は、3つのグループ、すなわち、新製品購入時期で区分されるライトハウスカスタマー(もっとも最初に関心を示す層)、マジョリティ(ライトハウスカスタマーやアーリーアダプターの評判を聞いて購入する層・市場の最も大きな部分を占める)そしてラガード(一番最後に購入する層)に分けて考えることができます。今回は、その内のライトハウスカスタマーについて議論をしたいと思います。

●ライトハウスカスタマー(リードユーザー)として

既にこれまでも何度か議論をしていますが、顧客の中には自社(皆さんの会社)の製品分野に強い関心を持っている顧客がいます。例えば、自社内でそのような製品を自ら研究したり、内製したり、まだ製品となっていないようなものを購入して、使い倒すという会社・人です。人で言えばオタクのような人です。ソニーの元会長の大賀さんなどは、このような顧客でした。大賀さんは、もともとは声楽家で、ベルリン音楽大学に留学中に、ソニーのテープレコーダーを購入し、自分で使ってみて、ソニーに様々な要求や問合せをしていたそうです。その縁で、彼はソニーに入社しました。

ライトハウスカスタマーは、一人一人、一社一社が自社の製品(皆さんの会社の製品)の周辺について深い知識を持ち、明確な意見やニーズを持っています。つまり、市場全体から見ればまだ潜在ニーズ段階であるものの、本人としては顕在ニーズとして持ち、加えてその製品分野の技術にかなり詳しい企業・人達です。つまり皆さんの企業との共通言語を持ち、かつ自社ではなかなか考えのおよばない製品の将来を語れる顧客です。このような顧客とコンタクトを持つことにより、アイデアの源泉となるような重要なインサイト、もしくはアイデアそのものを入手することができます。

必ずしもこのような顧客はこちらから積極的に探す必要はなく、向うがこちらを主体的に探してくれるのが普通です。なぜなら、ソニーの大賀さんのように、彼らは皆さんの会社の製品や技術に日頃から大きな関心を持っているからです。その為、自社がすべきことは、自社の製品や技術に関する情報を積極的に発信し、外部からの問い合わせに前向きに捉え、それらの問合せ先と積極的にコミュニケーションをとることができる体制を整えることです。

『多様な』ライトハウスカスタマーと関係性を持つ視点からは、外国語、最低限英語での情報発信は欠かせません。企業の中には、外国語での情報発信は相当敷居が高いと感じるところは多いでしょう。しかし、得られるリターンを考えれば、またそもそも今後当然すべき海外展開、そしてオープンイノベーションの必然性・有効性を考えれば、とにかくやるという決断をくだすべきです。

情報発信の手段としては、展示会の利用の他、自社のウェブサイトでの情報発信や、その他のメディアを利用することが有効です。さらに、一歩進めて、自社内に常設の技術紹介のショウルームを設ける(3M、富士フイルム、帝人など)や、顧客の技術相談窓口を設ける(ディスコなど)など、かなり投資を伴う展開も考慮する価値は大きいものです。なぜなら、潜在ニーズや製品に関わるインサイトを市場から得るメリットとして(必ずしも、ライトハウスカスターだけからではありませんが)、将来複数年にわたる何十億、何百億の収益としてのリターンが期待できるからです。

(浪江一公)