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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第81回:革新的テーマ創出のための環境の用意(その2)

(2014年5月12日)

 

セミナー情報

 

 前回は「革新的テーマ創出するための環境の用意」について議論しましたが、前回の議論の内容も一部踏まえ、今回も引き続きこの議論をしたいと思います。]

■革新的テーマ創出のための環境の用意に向けての「ハードの仕組み」と「ソフトの仕組み」

 前回で議論したテーマ創出を含む、テーマの事業化のプロセスであるステージゲート法のような「ハードの仕組み」の導入と並行して必要なのが、研究開発担当者に常にテーマ創出への関心を掻き立てる心理的な仕組み、すなわち「ソフトの仕組み」の構築です。この「ソフトの仕組み」が機能していないと、「ハードの仕組み」は絵に描いた餅になり、テーマの創出は覚つきません。

■研究開発担当者に常にテーマ創出への関心を掻き立てる心理的な「ソフトな仕組み」の3つの要因

 それでは、「ソフトの仕組み」造りにどのような視点から取り組むのが良いのでしょうか?私は、テーマを継続的に創出しないと研究開発担当者が困る状況の創出(ネガティブ要因)、テーマを創出することで研究開発担当者が充実感を感じる状況の創出(ポジティブ要因)そしてテーマを創出し、事業化をする過程での阻害要因を取り除く(中立要因)の3つの視点・要因から、バランスの良い仕組みを構築することが、有効と考えています。

 なぜなら、目先の今走っている既存テーマへの取組の優先度が高い中、ネガティブ要因は、研究開発担当者に新テーマの創出を直接的(制度的)および間接的(心理的)に強制するという意味で効果を発揮します。しかし、イノベーションの発揮の面からは、それだけでは不十分です。より前向きな、研究開発担当者が自ら主体的に取組みたいと思える仕組みが、絶対に必要です。それが、ポジティブ要因です。またイノベーションの取組姿勢の面から、社員を「自燃性社員」、「可燃性社員」そして「難燃性社員」に分ける考え方がありますが、社員の大半を占める「可燃性」社員をリスクの高い革新的テーマに取り組ませるために、この2つの要因に加えて、テーマ創出に向けての心理的なハードルを下げテーマ創出に取組み易くするための仕組みが、中立要因です。

 以下に一つ一つ議論をしていきます。

1. テーマを継続的に創出しないと困る状況の創出(ネガティブ要因)

 まず一つ目が、テーマを継続的に創出しないと困る状況(ネガティブ要因)の創出です。ここでは、研究開発担当者にテーマを創出しないと、本人達が困る状況が生まれると認識する環境を創出することを目的とします。そのために、ネガティブ要因という名前を付けています。

 ここで重要なキーワードが「継続的に」です。社内で一度大きな長期にわたる収益の創出を実現するような事業的な成功に結び付くようなテーマが創出されても、それで満足することなく、引き続き新しいテーマを次々に創出するモチベーションが重要です。なぜなら、ステージゲート法の多産多死の前提を充足するのに、このようなモチベーションが重要だからです。

 この方向には、以下のような2つの方法の例が考えられます。

1)継続的な新テーマ創出に直結する目標設定と評価

 まず継続的な新テーマ創出に直結する目標を与え、毎期この目標達成度を組織および個人の評価の対象とすることです。この評価は厳格に行わなければなりません。目標設定の指標の例に以下があります。

-事業部門:新製品売上高比率

 事業部門の場合には、前回も議論した新製品売上高比率の目標を与えることです。ここで注意しなければならないのが、「新製品」の定義です。この定義には2つの視点があり、製品としてどのような要件があれば「新」とするのかということと、何年前に市場投入された製品を「新」とするのかという議論です。この点については、一般論としては、特に決まった定義はありませんし、後者については動きの早い業界(消費者向け家電など)と一度テーマが成功裏に事業化されるとその効果の長い業界(製薬業界など)など、業界により大きな違いがあります。

・研究開発部門:ステージゲート・プロセスの各ゲートでの通過テーマ数

 事業部から独立した研究開発部門の目標をどう設定するかですが、ステージゲート・プロセスのゲートの通過数で議論するのが良いのではないかと思います。最後のゲートでは、市場投入必要数は、企業の中長期の売上目標からある程度の前提を持って算定できます。また、そこに行き着くまでのゲートでの通過数も、これまでの傾向から算定することができます。このようにゲート毎で目標を設定する方法をとることで、単にテーマの数(「量」)だけでなく、「質」の面も評価することができます。

2)いつ目の前のテーマが中止になるかもしれないという状況の創出

 もう一つの重要な仕組みが、上のステージゲート法の議論とも直接的に関係がありますが、テーマを冷徹に評価し、厳格に中止するとうことです。研究開発担当者が、一度提案したテーマが通常は途中で中止されることないということであれば、担当者は目の前のテーマは継続されることが当たり前と考えます。このような状況では、ひたすら目の前の今走っている既存テーマにすべての注意が向けられ、他の新しいテーマの創出への関心は持ちようもありません。しかし、いつ何時(ゲートで)テーマが中止になるかもしれないという状況では、目の前のテーマにも必死に取り組むと同時に、中止になった場合の次のテーマを考えておこうという心理的な状況が生まれるものです。

 それにより研究開発担当者は、より広く市場や技術に関心を持つようになります。そうすることで、より「継続的に」新テーマを創出できるようになります。

■ネガティブ要因創出に向けてのステージゲート法の価値

 以上のように、ステージゲート法を導入し厳格にステージゲート・プロセスを運用することで、ネガティブ要因の創出において、ステージゲート法は大きな効果を発揮します。

次回も引き続き「革新的テーマ創出のための環境の用意」について、議論をします。

(浪江一公)