Top
> メルマガ:日本の製造業復活の処方箋『ステージゲート法』

 

日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第76回: 革新的テーマの原料としての技術知識強化モデル『TCAS』

(2014年3月3日)

 

セミナー情報

 

前回までは、革新的テーマのスパークに必要な「革新的テーマの原料としての3つの要素」(第56回)の内、最初の要素である「市場知識」を収集する方法を、TADという3軸に沿って議論をしてきました。今回からはスパークに必要な3つの原料の2つ目の「技術知識」について、議論していきたいと思います。

「技術知識」については、研究開発に携わる人たちにとって、ここまで議論した市場知識に比べ、当然遥かに詳しく、また新しい技術に対する感度は高いものです。しかし、この「技術知識」とて、革新的なテーマを継続的に創出するには個人としても組織としても継続的に強化していく必要性があります。

●「技術知識」の2つの分類:自社周辺技術と自社にない世の中の技術

革新的テーマ創出に必要な技術知識の強化の対象は、その強化の方法の違いから大きく分けて2つあります。まずは、一つは周辺技術を含め既に自社が保有する技術知識です。この分野は既に社内に相当の基盤がありますので、その延長戦上で強化を考えればよいものです。もう一つは自社にはない世の中の技術です。市場の知識の調査などから、対象とすべき顧客価値が明確になっても、その実現のために必要な技術は自社の保有技術が最適とは限りません。自社にはない全く新しい技術を利用しなければならないことは多いものです。したがって、もちろん世の中の技術をすべて知ることは不可能ですが、このような自社が保有していない技術知識についても、普段から広く集めておく姿勢があるかないかで、スパークが起こる可能性には大きな違いが生まれます。

まずは最初に自社が保有する技術および周辺技術について議論します。

●自社周辺技術知識の強化・拡大モデル『TCAS』

自社の技術を強化するためには、強化の方向性を示すモデルにTCASがあります。TCASは4つの要素から構成されます。

○発信(Transmit)
「技術知識」拡大において重要なのは、自社の視界の中にある技術情報だけでなく、その外にある自社が気がついていない情報や知見を積極的に集めることが必要です。そのためには、自社の技術や事業に関わる情報を主体的に発信して、その結果として外部からの自社技術についての問い合わせを増やし、自社の技術知識を拡大することが重要になります。

○収集(Collect)
『収集』は文字通り、技術情報を収集し拡大するための活動です。収集には主体的な情報収集に加え、上の発信に対する受信で技術知識を増やす方法も含みます。

○活動(Act)
これは、既存の技術や上で収集した新しい技術を実際に使って研究開発や製品開発の実際の活動です。このような活動を行うことで、その技術を更に発展させ新しい技術を創出し、また個人や組織に中にその技術を定着させることができます。

○共有(Share)
これは、上の活動(収集・活動)で得られた技術知識を、組織横断的に共有するための活動です。社内では個人や組織単位では技術のレベルには当然ばらつきがあり、組織横断的に平準化し、更にはそれを高めることを目的とします。

○そして再度発信
以上の活動から自社で収集、創出・定着、共有化された情報を更に発信するという形で、このモデルを相乗効果的に運営することで良循環を生み、自社の技術知識を継続して拡大することを行います。

既に『発信』については、前回の第75回で議論をしました。また『収集』や『活動』は既に自社内で主体的に行なっている活動ですので、ここでは『共有』について議論したいと思います。

●自社技術知識の『共有』の2つの方向性

自社保有技術知識の共有化には2つの方向性があります。1つの方向は、ある特定の自社の要素技術を社内横断的に『関係部門間』・『該当研究者・技術者間』で共有・強化するものです。もう1つは、社内にある要素技術を従来関連のなかった部門や研究者・技術者にも広く知らしめ共有化するものです。

○『関係』部門間/該当研究者・技術者間で共有・強化

このような技術の共有化の仕組みの例に、東レの「要素技術連絡会」があります。東レでは、自社の技術を「基幹技術」、「共通技術」、「新要素技術」の3つの分野に分け、合計14の要素技術について技術毎に連絡会を開催しています。その目的は、その分野で国際的なレベルの研究者を育成し技術を高め、またその活動の中から大型テーマを生み出すことも含めています。具体的な活動としては、自社の技術力の他社比較分析や社内のシンポジウム・勉強会・自主講座の開催、大学との交流の促進、自社の技術施策への提言などを行なっています。このような自社の技術の共有・強化については、その他、村田製作所の戦略的技術プログラム(STEP)、3Mのテクニカルフォーラムなどが知られています。

○従来『関連のない』部門間/該当研究者・技術者間で共有・強化

「縦割りの研究開発体制に横ぐしを刺し、組み合わせの論理で面白い製品やサービスを生み出したい」(日本経済新聞2014年2月9日朝刊)。これは三菱ケミカルの小林喜光社長の言葉です。企業が大きくなればなるほど、自社の技術は各部門間の壁に阻まれ共有化は難しくなるものですが、まさに小林社長が語っているように、それらを組み合わせることで、それまで想定していなかった新しい製品が生み出すことができます。

そのための方法として、社内の技術内覧会を実施する、各部門の持ち回りで自部門技術の紹介の場を設けたり、外部に向かっての自社技術の紹介の対象に自社内も含めて考える、更には研究者や技術者をこの目的のためにローテーションするといった方法が考えられます。

企業は現在取り組んでいるテーマに対しての関連情報の収集やその技術を生み出す活動には大きなエネルギーを割くものですが、生み出した後の技術については関心が薄いものです。しかし既に自社にある技術を活用する余地は大きいのです。まさに、それを自社の戦略の中核としているのが、3Mです。革新的テーマ創出の頻度を高めるために上のTCASモデルを主体的に運営するという活動は自社技術知識の強化において大変重要になります。

(浪江一公)