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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第75回: 革新的テーマを創出するために 「自社技術を市場にアピールする」

(2014年2月17日)

 

セミナー情報

 

本日は、革新的テーマを創出するための方法として、「自社技術を市場にアピールする」を議論したいと思います。

●オープンイノベーション時代の自社技術・他社技術

オープンイノベーションは、10年ほど前から使われるようになった概念ですが、現在では単なる流行ではなく、既に企業の経営のコアコンセプトとして確固たる地位を確立したように思えます。ますます複雑化し、変化の速い時代の中で、外部が開発した技術を積極的に取り入れるというのは理にかなっています。また自社の研究者・技術者の限られた頭脳でなく、世界中に存在する数多くの研究者・技術者の頭脳を使うことは、合理的な判断でもあります。

シュンペーターは「イノベーションとは新結合」と言っています。つまり、既存の自社の技術と他社の技術を組み合わせ、スパーク(新結合)させることで、革新的なテーマ(イノベーション)を生み出すことができるのですが、スパークの原料を世界に広く求めることで、スパークの起こる可能性は大きく高まります。

●革新的テーマを生み出すために、自社が主体的に自社技術を市場にアピールする

技術は組織の奥の院である研究開発部門で創出され、そこにできるだけ外部に知られないようにこっそり利用するということは多いものです。したがって、普通の状態では、自社の組織外の技術との間でスパークを起こすのは難しいものです。外部の技術と自社の技術とをスパークさせるには、まずは自社が主体的に自社保有の技術を市場にアピールし、その存在を多くの人たちに知ってもらうことが必要です。そして更に一歩進めて、彼らの頭を刺激して、新しいスパークを彼らの頭の中で起こさなければなりません。

●自社技術をどう効果的に知らしめるか?:技術紹介の場の設定

そこで問題になるのが、どのような方法で自社の技術を市場に知らしめ、更に外部の人たちの頭の中でスパークを起こすかです。それについては、近年技術紹介の場を設ける方法が注目を浴びており、そのような方法をとる企業が少しづつ増えています。例えば最近で言えば、先月富士フイルムが「オープンイノベーションハブ」をオープンしました。ここでは、自社のコア技術を紹介するとともに、自社技術全体に通じた技術者を配置し、顧客を含めたビジネスパートナーとの間で共創を実現しようとするものです。

このような技術の紹介の場の源流は、住友3MのCTC(カスタマーテクニカルセンター)です。CTCは、同社のビデオテープ工場の跡地の有効利用法として、顧客との共創に向けて自社のコア技術(3Mではプラットフォーム技術と呼ばれている)紹介の場として作られたものです。その後このコンセプトは、親会社である3Mにも採用され、現在では世界中に30ヶ所以上も設けられています。

●技術紹介の場を機能させる工夫

しかし、自社の技術を紹介する場を単に作るだけでは、革新的なテーマを創出することはできません。技術紹介の場を巧く機能させるためには、いくつかの工夫が必要と思います。その内のいくつかをここで議論しましょう。

○その技術で『何ができるか』を示す

単に自社の持つ要素技術を並べるだけでは、顧客への刺激は限定的です。多くの顧客は技術自体にはあまり関心がありません。その技術で「何かできるか」に関心があるのです。したがって、技術の紹介の場でありながら、実際には「その技術で何かできるか」の紹介の場でなければなりません。したがって、過去にその技術を使って新たな用途を開発した事例を、顧客にとって分かり易い手段で示すことは必要です。

しかし、多くの場合自社にはあまり沢山の用途の実績はないかもしれません。その場合、用途は仮説であってかまいません。そのために、自社のコア技術毎に、その技術で「何ができるのか」を明確にしておく必要があります。そして、その技術の用途仮説を技術紹介の場で顧客に問うのです。これは技術紹介の場に限らず、革新的なテーマを創出する上で重要な作業です。どのようにやるかについては、また別の機会に議論したいと思います。

○『瞬時に』顧客の心を捉える工夫

技術紹介の場で数多くの自社技術を紹介するのであれば、顧客がその技術に触れるのはほんの数秒にすぎないかもしれません。その短い瞬間に顧客の心をつかまなければなりません。したがって技術の見せ方やその説明には工夫が必要です。実際の用途例があれば、それを示すことはもちろん効果的ですが、実際の用途例がない場合や新たな用途を紹介するにはどうしたら良いのでしょうか?

プロトタイプや絵や写真のように、一瞬で理解できるものを用意すべきです。文章での説明、図、動画は顧客の心をつかんだ後でなければ、効果はありません。特に図についていうと、相手もその道の専門家ですので一見有効であるように思えます。しかし、その意味を理解するにはそれなりの時間が必要です。上で触れた住友3MのCTCにおいては「見て、聞いて、触れて、感じて、発見してください。あなただけのソリューション」(住友3M「カスタマーテクニカルセンターのご案内」より)とあるように、3Mの技術を五感で理解する工夫がなされています。したがって、それぞれの技術毎に『一瞬』で顧客の心をつかむような展示上の工夫を、丁寧に考え用意することが重要です。

○双方向のコミュニケーションを行なう

また説明は、技術者自らが行なわなければなりません。展示品の紹介内容を暗記しているだけの説明者では、全く不十分です。相手のその道の専門家との間で与えられた限られた時間で『スパーク』を起こさなければなりません。こちらもその道のプロがその場にいて顧客と双方向でコミュニケーションをする必要があります。また、相手から得られた情報は今後のテーマ創出に向けて大変大事な情報です。それらの情報を受信し、蓄積する場として活用しなければなりません。

○技術紹介の場の前プロセス

また、技術紹介の場に、新しい顧客を連れてくることが鍵になります。なぜなら、従来に行なわれてきたような既存の顧客との間でのコラボレーションだけではなく、広く自社の技術を紹介し、『スパーク』の可能性を上げることが、技術紹介の場の役割であるからです。当然既存の顧客の技術者や研究者に足を運んでもらうような活動は行なうものの、それは全体の一部にすぎません。世界中の技術者・研究者に足を運んでもらわなければなりません。

そのためには、全体の技術コミュニケーション戦略が必要です。様々な活動を通じて、いかに自社の技術紹介の場をアピールするかです。自社のウェブサイトでの技術紹介やソーシャルメディアやメールマガジンを使った情報発信といった活動は重要な部分を占めるものの、それだけではありません。新規顧客開拓活動や展示会、学会発表、自社の要素技術研究会等、全体の活動と整合をとり、これら活動を巧く活用することが必要となります。

(浪江一公)