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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第74回: 「サービス情報の活用:トロイの木馬としての自社製品を利用する(2)」

(2014年2月3日)

 

セミナー情報

 

今回も前回に引き続き、「サービス情報の活用」に関し、トロイの木馬としての自社製品を利用する方法を、設備機器以外の製品について考えてみます。

●ユーザーにアクションをとってもらうしかない

設備機器以外の他の単価の低い製品や顧客の製品の中に組み込まれてしまう部品や原材料、そして一般の消費財などについては、こちらから出向いて修理や保守をする機会があまりなく、またそのままではICTを使って自動的に利用情報を吸上げるということが困難ですので、ユーザーに何らかのアクションをとってもらうしかありません。

そのために様々な工夫が必要になります。いくつかの方法について考えて見たいと思います。

●ユーザーと直接面会することなくコミュニケーションをとる方法

これは、ユーザーに基本的にユーザーのいる場所で、ユーザーの利用状況に関わる情報を自社(サプライヤー)にメール、インターネット、電話等で連絡をしてもらうものです。したがって、こちらからユーザーに出向く必要もなく、ユーザーもこちらに足を運ぶ必要がありませんので、両者にコストがあまりかからず比較的容易です。

○ユーザーが主体的に情報を発信してくれる場合

製品が故障したり、利用方法が分からない等の場合には、ユーザーは主体的に情報を発信をしてくれます。この対応をおろそかにすると、顧客満足度が大幅に低下しますから、従来からカスタマーサポートセンター等の体制を充実させています。別に新しいことではありません。

しかし、その情報の利用法にはまだ工夫の余地があると思います。たとえば、ユーザーの質問については自社のウェブサイト上でFAQで機械的に対応するという例が多いものですが、確かにユーザー対応コストは大幅に削減できますが、本来の目的であるユーザーの質問に応えるという面ではそのレベルは不十分ですし、ユーザーの声を収集することはできません。積極的にユーザーの声を集める目的で、費用は掛かるものの、丁寧なまた積極的な対応するために、例えばコンシェルジェなどきちんと人間が対応することも重要です。

また、現実にはユーザー情報を集めていても、その情報を社内で効果的に共有している企業は多くはないようです。そのため、ユーザー情報を社内で共有する方法が必要になりますが、例えば米国のオフィス用品を取扱うステープルでは、単にカスタマーサポート担当者だけでなく、社員数百人が大講堂に集まり今まさに起こっているカスタマーサポートセンターの担当者とユーザーとの間での会話を直接聞く機会を設ける(月に4回)などを行なっています。まとめられたレポートでは形式知化された情報しか伝わらないという欠点がありますが、このような活動によりナマの声を直接聞く機会を持つことで、アイデア創出に極めて重要な暗黙知を1人1人の社員が蓄積することができるようになります。

○ユーザーに積極的にアプローチし情報発信を促す

しかし製品が故障したり、利用方法が分からないということが発生しない場合は、ユーザーには情報発信のメリットがありませんので、ユーザーが情報を発信してくれることは期待できません。したがって、ユーザーの情報発信を促すために、サプライヤーが何らかの活動を行う必要があります。例えば、アマゾンのように購入後に評価依頼のメールを送ることや、カスタマーサポートから製品を使っての困りごとがないかなどを聞く電話をする、またユーザーに今後のその製品に関する管理を容易性を訴えることで、マイページを立ち上げてもらうなどの方法があります。

●直接ユーザーと面会し双方向のコミュニケーションを行なう

しかし、ユーザーと面会することなく、上のような媒体を通してコミュニケーションするだけでは、情報量が少なくなるという欠点があります。一方、直接面会することで、かなり長い間のユーザーとの間の双方向のコミュニケーションをすることができるので、多くのポイントを突いた情報の入手が可能です。

○ユーザーに自社まで足を運んでもらう

1つが、ユーザーに自社にまで足を運んでもらうという方法です。例としては、ユーザーに対して利用サービス講習を提供するなどの方法があります。例えば、私の場合で言うと、最近携帯電話のショップからスマートフォーンの利用法に関する講習の案内が来ました。以前よりスマートフォーンは使っているのですが、使い方がわからずほとんどスマートフォーンの機能を使っていませんでしたので、早速予約をし講習を受けてきました。なんとショップでは1対1で1時間丁寧に教えてくれ、良く理解することができました。この方法は、設備機器などではかなり利用されている方法ですが、スマートフォーンの例のようにその他の製品でも可能です。また、ユーザーにメリットがありますので、有償としユーザーのメリットの大きさに応じた値付けをすることもできます。

その他、前々回(第72回)に議論をしたディスコの顧客サービスセンターのように、ユーザーが自社製品の利用に関し課題を抱えている場合などより突っ込んだ議論ができるよう、実験設備等を用意した体制を整えるといったことまで踏み込んだ対応などが考えられます。

○ユーザー訪問する機会を作る

ユーザーに自社にまで足を運んでもらうことは、ユーザーに相当のメリットがなければなりませんので、敷居は高いのは事実です。そのため、こちらからユーザーの場に出向くという方法があります。しかし、ユーザーは日々忙しいのが普通ですし、ユーザーが納得するような理由がない限りサプライヤーの人間の訪問を歓迎することはありません。そこで、製品の販売時から、再度ユーザーの訪問をする機会を持つ仕組みを全体のプロセスの中に組み込んでおくという方法があります。

例えば、引越し会社の中には、引越し前に荷造り用に提供したダンボールを、顧客が引越した後新居での荷物の整理が終了したころを見計らって、回収に行くというサービスをしている企業があります。顧客が引越しをすると、そこには引越しだけではなく、様々な製品やサービスを新たに購入する機会がありますので、事後に訪問することで、例えばインターネットのプロバイダー契約や家電の修理などを請け負うことができる可能性があります。それにより、再訪問のコストを回収することができます。このような場を利用して、顧客の引越し時の不満や要望を聞かない手はありません。

以上、ユーザーが自社の製品を購入したことで、ユーザーの手元に自社の製品という「トロイの木馬」が置かれますので、その機会を利用して新たな関係を構築することで、単に自社の他製品やサービスの販売機会を生み出すだけではなく、製品のアイデアに結び付けることを目的にユーザーの情報を収集することができます。

(浪江一公)