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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第56回: 「革新的テーマ創出に向けて『市場の知識』を収集する目的」

(2013年8月26日)

 

セミナー情報

 

前回は、革新的テーマの創出には『大きな』枠組み、すなわち「革新的テーマの原料としての3つの要素」と「スパークを起こすための3つの場の要件」という枠組みの構成要素を議論しました。今回からはそれらの構成要素一つ一つについて議論をして行きたいと思います。今回から数回にわたり、革新的テーマの原料の一つである「市場の知識」を取り上げます。

●「市場の知識」は何のためのものか?
市場の知識の重要性は、前回でも議論したように、革新的テーマは最終的に大きな顧客価値を実現し提供するものであるため、そもそも革新的テーマを創出するに当たり、顧客が何に対し大きな価値を認識するかを知らねばならないというところから来ています。そして、さまざまな「市場の知識」にもとづき、顧客が何に大きな価値を認識するかを想定し、突き止めることです。

まず最初に、テーマ創出を目的として「市場の知識」によって最終的に明らかにすべきポイントを以下に整理して示します。

●テーマ創出に向けて「市場の知識」により最終的に明らかにすべきポイント

○対象とする顧客ニーズ:2つの相反する重要なニーズのセット

まず革新的テーマを定義し、創出するためには、その対象とするニーズを明確にする必要があります。従って、その革新的テーマが対象として充足する最重要の顧客ニーズを特定します。

ほとんどの場合充足の対象となるニーズは、他の重要なニーズとトレードオフの関係にあります。例えば、炭素繊維であれば、「強い」というニーズがあれば、そのニーズを充足しようと思えば普通は重くなってしまします。しかし、同様に重要なニーズに「軽い」というニーズがあります。つまり、これら重要なニーズはトレードオフの関係にあるのです。もしこの重要ニーズの間でのトレードオフの関係がなければ、そのニーズを充足しても革新的なテーマにならない可能性が大きくなります。なぜならトレードオフの関係がなければ、その最重要ニーズの充足には大きな制約がなく、その実現は比較的容易であるということになるからです。革新的テーマとはそもそもその達成は難しく、それ故今まで達成されてこなかったテーマですので、この場合は革新的なテーマに結びつきにくくなります。従って、あえてより大きな顧客価値を実現し、よりチャレンジングなテーマとするために、そのテーマの対象とする最重要のニーズとトレードオフの関係のある他の重要ニーズを同時にセットで定義するということをします。

例としては、炭素繊維の他に、工作機械では加工精度は高いが加工が速いや、食品においてカラダにいいがおいしいなどがあります。これらの例からも、この相反する2つの重要ニーズをセットで定義するのは、その顧客価値が大きく拡大するという意味で良いように思えます。

もちろん、顧客のニーズはこれら2つだけではありません。しかし、まずは、テーマのコンセプトを明確にするために、これら2つの重要なニーズだけを選ぶのが良いと思います。他の事業化や商品化時に考慮が必要となる付随的なニーズは後のステージで当然考慮します。

ちなみに、相反する2つのニーズの充足は、他の革新的テーマの原料の一つである「技術の知識」が担当します。ここでは、技術的解決においてはトレードオフを解決するためのイノベーションが求められます。

(相反するニーズの内コストをどう考えるか?)
ちょっと各論に入りすぎのようにも思えますが、ここで2つのニーズのセットについて重要な点を指摘しておきます。ここで言うニーズは、製品の機能的なニーズだけではありません。QCD、すなわち広義の品質、コスト、納期など全て含みます。ここでコストの低さを相反するニーズの一つと考えると(多くの場合価格が低いは、最重要なニーズです)、相反するニーズとして必ずコストを挙げることができるということになりますので、より顧客提供価値を高めるために通常はコストを相反するニーズの一つとはしないことが重要です。

ただし例外としては、ある機能的なニーズを高める一方で、コストを劇的に下げることで、大きな市場が創出されるような製品や事業を対象とし、それを当該革新的テーマのコンセプトとするのであれば、コストを相反する2つのニーズの1つとして位置づけることは問題はありません。例えばユニクロのイノベーションで、価格を従来の製品の価格帯より劇的に下げたというのがこの例に当ります。

○ニーズが存在するコンテキストと市場

上の炭素繊維の例で言えば、確かに「強さ」と「軽さ」が同時に実現できる材料があればいいということは、頭で想像はできるものの、それが本当に大きな価値があるものとして実際に認識される場や顧客も初期から想定・特定する必要があります。上で想定したニーズは本当に応用分野として市場にあるのか、顧客はだれなのか?どのような場でそれを求めているのか?顧客は強くそのニーズの充足を求めているのか?また事業として成り立つに十分な市場規模があるのか?は、テーマ創出においては極めて重要な部分です。従って、具体的な市場規模の算定などは後で考えるにしても、そのコンテキストと市場を初期から明確にする必要があります。

●これらポイントを探りあてるための「市場の知識」の収集・蓄積の仕組みの必要性
テーマ創出に向けて、以上のポイントを明らかにする、もしくは想定することを目的に、「市場の知識」の収集・蓄積を行います。

しかし、これらポイントに辿りつくのは簡単ではありません。もちろん顧客に直接聞いて教えてもらうという方法もあります。しかし、革新的テーマは今までに製品として実現されていないものですので、顧客に直接聞いても、顧客自身が自分のニーズが分かっていない例が多いものです。また一人の顧客が言うことが、市場全体を代表しているとも限りません。また、既存市場を対象としない、新規事業などの場合は、そもそもどの市場を対象として良いかもわかりません。その為に、体系的な仕組みや活動が必要となります。

次回からどう市場へのアプローチを開始するのか?市場にアプローチするときには、どのような視点を持たなければならないか?どういう方法をとると市場の知識が高まるのか?など市場の知識を収集・蓄積するための体系的仕組みや活動について議論を続けて行きたいと思います。