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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第51回: 「初期のステージでビジネスモデルを考える意味」

(2013年7月22日)

 

セミナー情報

 

今回は、初期のステージにおけるビジネスモデルのデザインの重要性について、議論したいと思います。

●ビジネスモデルとは何か
ビジネスモデルは近年良く議論される言葉となってきましたが、その意味するところは様々で、実際企業で議論している場においても、どうも議論がかみ合っていないという場面に遭遇することも多いものです。

何人かの研究者がビジネスモデルを定義していますが、私は「限定された経営資源で、最大の顧客価値を実現し、かつそこから自社が最大の利益を享受する仕組み・体制」と定義しています。ビジネスモデルは、日々の事業推進において企業活動の源泉・目的である利益を最大化することを目的とします。自社の利益の最大化のためには、そもそも顧客は自社が提供する価値の対価として費用を払う訳ですから、まず第一に顧客価値を最大化することが大変重要な活動となります。そして次に、その創出した顧客価値を、自社の利益に効果的に結び付けなければなりません。しかし一方で、事業や競争環境がより複雑化し、製品ライフサイクルが短くなる中、これら活動を行うには、より大きな経営資源の投入を必要する状況になってきています。

これら活動を効果的・効率的に推進するための展開のプラットフォームとしての仕組み・体制が、ビジネスモデルなのです。自社の経営資源が限られる一方でより多くの経営資源が必要となってきているという時代背景の中で、ますますビジネスモデルの早期での構築が重要になってきていると言えます。

●ビジネスモデルで考える2つの視点
以上のビジネスモデル定義の中で、ステージゲートプロセスのゲートでは何を評価し、ステージで何を成果物として考えれば良いのでしょうか?そこには2つの考えなければならない点があります。

視点1:顧客価値を最大化する『業界』の価値連鎖(外部の価値連鎖)

上で述べたように、事業・製品展開により、顧客価値を最大化するには大きな経営資源が必要ですが、自社が供出可能な経営資源は限定されています。また、自社は全ての活動において得意という訳ではありません。そこで、自社を含む業界、企業グループ単位で顧客価値を提供するということが有効になります。通常顧客価値は、システム(ハード、ソフト、サービスの組み合わせ)の提供を通じて実現されます。従って、業界・企業グループが実現する全体の「システム」と、その中で自社が占める位置づけをデザインします。ここで重要なが、そもそもこの「システム」は最大の顧客価値を実現することが目的であることに加え、最終的に自社の利益を最大化する必要があり、自社が全体のシステム、すなわち『業界』の価値連鎖の中で、価値創出において重要な役割を担うポジションをとる必要があるということです。

例えば、古くは、任天堂がファミコン事業で顧客価値最大化のためにゲームソフトメーカーを含む業界の価値連鎖を構築し、その中でソフトメーカーを支援し、また全てのソフトを自社が評価し販売するという自社の利益を最大化する仕組みを構築しました。また最近で言えは、アップル(スマートフォーン)やグーグル(スマートフォーン用OS)が行なっているアプリ開発企業の支援なども同様です。

視点2:自社の担当部分での利益最大化の価値連鎖(内部の価値連鎖)
視点の1で自社が担当する部分(ハード、ソフト、サービス)が決まったとしても、まだそこで終りではありません。自社が最終的にその部分を担うとしても、自社で全て行なうわけではありません。そこでも、自社が担う部分と外部企業が担う部分が当然存在します。しかし、ここでも自社が供出できる経営資源には限りがあり、顧客価値創出や利益最大化に貢献する部分に集中的に経営資源を投入するということです。

携帯電話・スマートフォーンのCPUメーカーにクアルコムがあります。同社はCPUの設計・マーケティングに特化し、実際の半導体は台湾のTSMC等のファンドリーが担当しています。半導体は最もこのような企業間分業が明確化している例ではありますが、全ての自社の製品やサービスにおいて、このように、自社の強み(今は強くなくても、今後戦略的に強化していく強みを含む)を発揮する部分を明確化し、自社・他社の切り分けを行なうことが必要となります。

●ビジネスモデルで大きく変わる研究開発テーマ
以上のようにビジネスモデルでは、外部と内部の2つの価値連鎖をデザインする訳ですが、既にお気づきのように、ビジネスモデルのデザインにより研究開発テーマの内容は大きく変わってきます。顧客価値はステージゲート法のマネジメントにおいて、極めて重要な要素ではありますが、「顧客提供価値・イーコール・研究開発テーマ」では決してありません。顧客提供価値→業界の価値連鎖(外部の価値連鎖)→自社の価値連鎖(内部の価値連鎖)→技術の選択(本日はこの議論はしていない)→自社の研究開発テーマとなります。このように、ビジネスモデルの議論を除いては、研究開発テーマは決まりません。

●ビジネスモデルは誰が考えるべきか?
それでは、誰がビジネスモデルを考えるべきでしょうか?それは研究者であり、開発技術者です。なぜなら、彼らがテーマの起案者になることが多いからです。上でも述べましたように、ビジネスモデルを考えずして(仮説であっても)、研究開発テーマ創出は考えられません。

●テーマを考える毎に筋トレのようにビジネスモデルを考える
現在、顧客が認識する価値もどんどん変わる世の中になっています。また、変化する競争環境の中、既存の価値連鎖(外部・内部の価値連鎖)は常により良いものを求め再考の余地があります。従って、全く新しい分野のテーマは当然のこと、既存の製品ラインのテーマに関しても、まさに日々の筋トレのように、テーマを選択・取り組む都度、ビジネスモデルを徹底して再考することが大変有効です。日本の半導体メーカーの例(いつの間にか、半導体の価値は設計に優れた企業と大規模なファンドリーに集中するようになってきたが、日本企業はその点を見逃すという重大な失敗をした)のようにならないようにする為にも。