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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第35回:ゲートの運営(その28):事業評価(23)
「製品評価ステージゲートはプラスとマイナスの差分で考える」

(2013年4月1日)

 

セミナー情報

 

 前回は、「事業評価ステージゲート」について議論しました。今回は、「製品評価ステージゲート」について考えてみたいと思います。

■コマツの坂根会長の言葉

 「『競争相手よりすべてで上を目指すような優等生的な製品開発はやめよう。今までの仕組みでは、常識をくつがえすような突き抜けた製品は絶対に出てこない。それよりも、まず何を犠牲にするかで合意しなさい』と指示した。何かを犠牲にしない限り、際立った特徴は生まれません。ライバルに負けてもいいところ、同じでもいいところをあらかじめ決めておき、その分、強みに磨きをかければいい。」(NHKテレビテキスト 仕事学のすすめ ダントツをめざせ 坂根正弘 コマツ会長)

 これはコマツの坂根会長がNHKの教育テレビ番組で語った言葉です。ここに製品評価ステージゲートにおける極めて重要な評価のポイントが示されています。それは「差分」の概念です。この「差分」はマーケティングで言われる「差別化」とは少し異なります。差別化とは、競合製品にない機能を持ち、すなわち追加する「プラス」の部分を当該製品の重要な訴求ポイントにするということです。しかし、「差分」は競合製品にあって自社製品にない「マイナス」部分も同様に重視します。

 競合製品が評判をとっている機能を自社の新製品に組み込まない「マイナス」の決定は、商品企画に携わる人間としては恐怖以外の何者でもありません。何しろ市場で証明済の機能なのですから、その発言力は絶大です。普通であればそのようなことをすれば、社内で集中砲火を浴びかねません。「なぜ既に顧客が良いといっている明確なニーズがある機能を入れないのだ」といったものです。VOCは強力で、覆すことは大変難しく、その結果、競合他社と似通った製品になってしまします。まさにコマツの坂根社長の言葉は、まさにその点の危険性をついたものです。

■リスクヘッジの鎧を脱ぎ捨て、裸で勝負する

 機能や品質では優れている日本製品が負けるというのは、数年前からの日本企業の負けパターンです。この問題の多くは途上国の市場で起こっていることで、「途上国の顧客の目が肥えてくれば日本製品の良さをわかってくれるはずなので、あくまで日本企業は高機能・高品質戦略をとるべき」という議論もあります。これはこれで良いでしょう。しかし、この戦略に到達する前にじっくり考える必要があるのではないでしょうか?

 それは、リスクヘッジ、すなわち失敗や社内の非難をかわすために、市場を深く洞察することなしに「プラス」の思考で、様々な機能、高い品質を盛り込んでいないかということです。私は、日本企業においてこのような事が広く見られるのではないかと考えています。もしそうだとすると、これは知的な怠慢です。

 このマイナスの製品企画で成功した例に、パナソニックのインド向けエアコンがあります。パナソニックの開発チームは、インドの家庭ではエアコンを長時間使い、また天井扇を併用するため、風向き制御とリモコン機能を削ぎ落とし、コストを低減し、大成功を納めました。(出所:パナソニック ホームページ)

 つまり、新製品で成功するためには、開発者が自分を守るリスクヘッジの鎧を脱ぎ捨て、裸で勝負する覚悟を決めることです。また、仮にその試みに失敗しても、寒風に身をさらし市場を肌で感じた経験は次の製品企画に必ず活かすことができます。

■製品評価ステージゲートの評価への意味

 このように、市場で成功するには、プラスとマイナス両方の差分で新製品を評価するということです。差分を考えるのは、競合製品だけでなく、自社の既存製品の両者が対象になります。後者について言うと、3Mでは「自社製品を陳腐化する最初の企業になれ」という言葉があります。自社製品の場合には、「グレードアップ」という美名の下(グレードダウンという言葉はあまり聞かない)、どんどん新機能が追加される強い傾向に注意しなければなりません。

 製品評価ステージゲートの評価項目では、以下をセットで問うことが必要です。

○競合企業に無い(もしくは水準が低い)機能で、自社製品に盛り込む機能は何か?それは、市場ニーズから考えてなぜのか?
○競合企業にあって(もしくは水準が高い)機能で、自社製品に盛り込まない機能は何か?それは、市場ニーズから考えてなぜのか?
○自社の既存製品に無い(もしくは水準が低い)機能で、自社製品に盛り込む機能は何か?それは、市場ニーズから考えてなぜのか?
○自社の既存製品ににあって(もしくは水準が高い)機能で、自社製品に盛り込まない機能は何か?それは、市場ニーズから考えてなぜのか?

 皆で「マイナス」思考を持ちましょう!