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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第34回:ゲートの運営(その27):事業評価(22)
「評価の対象の違いによる3つのステージゲート・バージョン」

(2013年3月25日)

 

セミナー情報

 

 前回は非革新的テーマ(エキスプレステーマ)の評価対象項目について議論しました。今回は、前回議論が不十分であった部分を補い、また整理する形で複数のステージゲートのプロセスの議論をしたいと思います。

■ テーマの性格により、事業評価、製品評価、改良評価の3つのバージョンに分ける

 私はステージゲート法はその評価のテーマの性格により、3つに分けるのが良いと考えています。この点は、私が昨年翻訳したロバート・クーパー教授の「ステージゲート法」(原著タイトル:Winning at New Products)の中に書かれていることとは若干異なります。原著では、ステージゲートプロセスは、本格バージョン(革新的テーマ)、エキスプイレス(既存製品ラインへの追加)、ライト(既存製品の改良)に分かれ、またそれに加え、技術開発を評価する「ステージゲートTD」が紹介されています。合計4つのバージョンです(但し、ロバート・クーパー教授は自社のプロセスを設計するに当り、フレキシブルであるべきと主張しています)。

 「ステージゲート法」の原著においては、本格バージョンは革新的テーマを評価するためのものですが、革新的ですので、これまで自社の展開の経験のない新しい分野のテーマです。新しい分野への参入の検討は、単品の製品単位ではなく、事業の単位で行なうべきです。なぜなら、新分野参入という通常大きな長期の投資が必要な決断をするに当り、全体像を捉えておく必要があるからです。一方、エキスプレスは、既に自社で展開している製品ラインへの新製品としての追加ですので、あくまで評価はその製品です。またライトについては、既に製品自体は市場で展開しているのですから、改めて製品を評価する必要はありません。その製品の改良を評価するのですから、改良する部分、つまり差分を評価すれば良いことになります。

 以上より私は、事業評価バージョン、製品評価バージョン、改良評価バージョンの3つに分け、下で説明する理由により、「ステージゲートTD」は、事業評価バージョンに含めるのが良いと考えています。

■事業評価バージョン

 この事業評価バージョンでは、個別の製品ではなく、今後展開していく製品ライン群を評価の対象とします。個別の製品ライン単位でもありません。より広い製品ライン「群」を評価するのです。もちろん検討の結果、一つの「製品ライン」だけを展開するという結論になるかもしれません。しかし、重要なのは、まずは複数の製品ラインの展開を検討することです。

 この背景には、「顧客は製品を買うのではなく、その解決策(ソリューションや価値)を買う」ということがあります。解決策を実現するには、一つの製品分野だけではなく、様々な補完製品や付随するサービスの提供が必要になります。例えば、樹脂を販売するのであれば、関連して金型や樹脂の流れ解析ソフトの販売をする等を検討するわけです。これら全てを対象に評価を行います。

 それからもう一つの重要な点が、自社がそれらの製品群提供においてどの部分の機能を担うかです。昨今のスピードが速い時代において、全てを自社で担うという形態はあまり適正な展開ではありません。自社が強いところ、顧客への価値実現・提供において重要なところは自社で展開し、他は外部の企業とのパートナーシップで展開することが必要になってきています。例えば、アセンブル系の産業においては、製造をEMSに任せるという形態が広まってきています。

 事業評価バージョンでは以上の2つの点を明らかにした上でテーマを評価する必要があります。この点は極めて重要です。革新的なテーマを製品単位でしか評価をしないと、ばらばらと小粒で面ではなく点として製品を市場投入し、結局は失敗する、もしくは後になって「事業」成功において重大な点が見つかり、予想していない大きな投資が強いられる、大きな困難に直面するということになります。一言で言えは、戦略不在の展開になるということです。

 実は革新的テーマを対象とした事業評価バージョンは、技術開発テーマの評価とも同じものです。「ステージゲート法」(ロバート・クーパー著)の中では、本格バージョンと技術開発テーマの評価バージョンは別のものとして記述されていますが、私は両者は同一のものであると考えています。

 革新的テーマは多くの場合、新しい技術の開発から生まれます(もちろん既存技術の寄せ集めで実現するテーマも少なからずありますが)。ステージゲート法の大きな特徴の一つが、調査や計画策定を初期の段階に行なうフロントローディング(一般的なフロントローディングの意味の、設計のフロントローディングではありませんので注意してください)です。従って、技術開発テーマにおいて実際に研究開発に取り組む前に、市場や技術そして自社の展開計画を策定することが必要になります。この活動は、全て単品の製品分野ではなく、上の「製品ライン群」つまり事業の視点で行なわれます。つまり、事業評価バージョンと全く同じなのです。

 この段階でフロントローディングを行なうことについては、異論も沢山あり、実行には大きな抵抗があるのが普通です。なぜ研究者がこんなことをしなければならないのか?という議論です。この点については、極めて重要ですので、また回を改めて詳しく議論したと思いますが、2点だけ延べておくと、この段階から想像力逞しくすれば、事業としての構想は可能であること、またこの段階ではあくまで仮説で構わないということです。技術開発テーマだからと言って、事業構想を後に先延ばしにする必要はありませんし、理由もありません。

 それはで、事業評価バージョンでは事業を対象とした評価を行なうのであれば、実際に製品の単位での評価はどのような方法で行えば良いのでしょうか?既存製品ラインへの新製品追加だけではなく、この新事業での製品を評価するのが、「製品評価ステージゲート」です。続きの議論は次回に行いたいと思います。