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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第30回:ゲートの運営(その23):事業評価(18)
「熱意は評価の対象とすべきか?」

(2013年2月25日)

 

セミナー情報

 

 テーマの評価に当って、プロジェクトチームメンバーの熱意を重要な評価項目としている企業が少なからずあります。しかし、私はあまり賛成していません。今回は、ゲートにおいて熱意を重要な評価項目とするかについて議論したいと思います。

■熱意は問題の原因にもなる

 私が賛成しない理由は、往々にして、ゲートキーパー側がそのテーマを評価できないために、代替の指標として熱意をするように思えるからです。

 私のクライエント企業に、1人のそのテーマに思い入れが極めて強いプロジェクトリーダーの熱意に基づき、技術開発やその他の投資を行ってきたが、どうもおかしいと感じたことが、ステージゲート法の導入のきっかけになった例があります。それまでプロジェクトリーダーの熱意に動かされ相当額の投資をしてきました(加えて既に一社のみですが、興味を持つ顧客が存在しました)。それまで、熱意に動かされ、加えて関心のある顧客もいたことから、その事業の真価を見極めずに進めてきたのです。導入したステージゲート法により、最終的にそのテーマは中止になりました。

■テーマの真価とプロジェクトメンバーの熱意は独立事象

 テーマの真価とプロジェクトメンバーの熱意は、両方とも革新的なテーマの事業的な成功には欠かせないものです。しかし両者には補完関係はありません。両者は、独立事項なのです。

■熱意は代替可能だが、テーマの真価は代替可能ではない

 加えて、上の私のクライエント企業のように、熱意のあるリーダーが進める、筋の悪いテーマは、間違いなく大きな失敗を招きます。これは100%と確実です。しかし、熱意のないリーダーが進める、筋の良いテーマは、それだけでは巧くは行きませんが、対処のしようがあります。

 テーマは良いが、プロジェクトチームの熱意が低い場合には、プロジェクトリーダーの首の挿げ替えを含め、対処する必要があります。「熱意」は、様々な障害が待ち受ける革新的テーマに対し、「熱意」によりそれらの障害を克服するという意味でプロジェクトの成功の重要要件ではありますが、代替は可能です。また企業でそのテーマを進める以上は、そのテーマが仮にそのプロジェクトリーダーの発案であっても、あくまでそのテーマのオーナーは企業であり、その人間ではありません。NIT症候群という問題もありますが、いつもその問題があるわけではありません。なんらかの理由でプロジェクトリーダーやメンバーの熱意が低ければ、ゲートキーパーは「泣いて馬謖を斬る」ことは起こってよいことです。

■熱意は強力な説得力を持つ

 熱意は美しいもので、強力な説得力を持ちます。また、熱意を持つプロジェクトチームメンバーに中止を納得させることは難しいものです。加えて、それほど熱意を持つのであれば、我々が理解できない何かがある筈だと好意的に考えしまってもおかしくはありません。

■テーマの真価を見極めるのがゲートキーパーの役割

 もちろんテーマの真価を見極めることは簡単ではない場合もありますが、あくまでゲートキーパーの役割は、その「テーマ」の企業にとっての真価を見極めることです。「熱意」をテーマの「真価」評価力の代替にしてはならないのです。ゲートキーパーは経営のプロフェッショナルとして、それをしなければならないのです。

 私はステージゲート法のバイブルであるローバート・クーパー教授の「Wining at New Products」を翻訳しましたが、その中には熱意の「ね」の字もでてくることはありませんでした。

 ゲートキーパーは、むしろ「熱意」には注意しなければなりません。

■熱意のあるリーダーのプロジェクト中止を救う方法

 しかし、世のイノベーションの中には、皆の反対にもめげず、強い熱意を持ったプロジェクトリーダーが事業の成功をもたらした例は、少なからずあります。3Mのシンサレートは、当時のゲートキーパーが中止にしたものの、担当者が有名な15%ルールを利用して、最終的に大きな事業における成功をもたらしました。同社のポストイットも同様です。

 ステージゲート法においては、そのようなゲートキーパーが判断を誤る場合も想定に入れておく必要があります。ゲートキーパーが判断を誤った場合には、3Mの密造酒造りや15%ルールのように、熱意を持つプロジェクトリーダーが、継続的に(但し、追加の経営資源を投入することなしに)そのテーマに取り組む余地を提供するという仕組みも必要になります。