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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第27回:ゲートの運営(その20):事業評価(15)
「チャレンジする人間は無意識の内にリスクを過小評価する?」

(2013年2月4日)

 

セミナー情報

 

 今回はゲートにおける事業評価項目としてリスクの議論をしたいと思います。

■チャレンジする人間は無意識の内にリスクを過小評価する?

 これは私見ですが、人間は達成が難しい高い目標に取り組むときには、自分自身のモチベーションを高めるために、無意識の内にリスクを過小評価をするという心理が働くのではないかと思います。積極的にならないと高い目標を達成できないため、その達成を阻害するモチベーションを下げるリスクを、無意識の内に過小評価するのではという仮説です。

 一昨年の福島の原発の問題も、原発を推進してきた政府の人間や学者は、彼らが日本に原子力を普及させるという高い目標に挑戦してきた結果、地震や津波のリスクを無意識に過小評価するという精神構造に陥ってしまったのではないかと思います。

■研究開発テーマ評価においてリスクの過小評価バイアスに対処する

 もしこの仮説が事実であるとすると、研究開発テーマへの取り組みにも、意識の高い人であればあるほど、同じようにリスクを過小に見ようとする心理が働くということになります。私のコンサルティングの経験からも、そして自分が当事者としても、このようなことが実際にあるように思えます。

 良く、プロジェクトの担当者は、ゲートでの承認を受けたいがために、意図的にリスクを隠すという議論がありますが、もちろんそういう場合もあるのでしょうが、むしろ無意識の内にリスクを過小評価するという心理的な影響の方が大きいのではないかと思います。そして、無意識、すなわち本人が気が付いていないゆえ、問題はより深刻です。

 従って、ゲートでの評価においては、特にこのリスクに対する心理的なバイアスを考慮する必要があります。

■研究開発テーマのリスクに効果的に評価する方法

 それではこのような問題が内在するリスクにどう対処したら良いのでしょうか?いくつか方法があると思います。

○リスクを肯定的に捉える
 通常革新的なテーマであればあるほど、リスクは高くなります。なぜなら、これまで誰もチャレンジしていないテーマが革新的である可能性が高いからです。そのため、ゲートでの評価に限らず、アイデア創出から市場投入までのプロセス全体で「革新的なテーマであればある程リスクは高いもの」という事実を共有し、リスクの大きさを肯定的に捉えることです。

 従って、ゲートでの評価は、リスクの大きさではなく、リスクの明確度とリスクへの適正な対策の具備の面から評価するのが良いと思います。

○ゲートミーティングで敢えて否定的な視点からだけ見る時間帯を持つ
  上でも述べたように、プロジェクトの推進側は高い目標に挑戦しているために、どうしてもリスクを過小評価します。したがって、テーマを評価する側が、敢えて否定的にテーマを見ることによってバランスを保つことができます。

 しかし、ゲートキーパーは客観的に評価しなければならないという責務も負っているわけですので、否定的だけで見ていてはだめです。また、ひとりの人間が相反することを同時に深く考えることは難しいものです。そこで、ゲートミーティングの中で、ゲートキーパーが否定的に見る、つまりリスクのことだけに集中して考え、議論する時間帯を作ることです。そこでは、ゲートキーパー全員が徹底してリスクのことを考えます。

○ドメインを明確化する
 対象とする分野(市場や技術)に経験や知見があれば、リスクをより客観的に見つめることができます。もし、例えば新規事業の創出の為の研究開発などの場合、全く知見のない分野を対象とし、一方で新しい新規事業を創出しなければならないという責任を負っているのでは、どうしてもリスクを過小評価してしまう可能性が高くなります。

 従って、新規事業の展開などにおいても、自社の展開ドメインをきちんと規定して、そのドメイン内でテーマを創出することが重要になってきます。

○社内の英知を集める
 英知を集めるはステージゲートの特徴の一つですが、特にリスクの評価においては、効果のある方策です。社内には、様々な部門で、様々な知見を持った人たちがいるわけですので、それら人たちの多様な経験、知見を活用してリスクを評価します。

○外部の専門家を活用する
 社内の英知では多面性の面からの評価が十分出ない場合もあるでしょう。その場合は、積極的に外部の専門家を活用することです。社内の人材は往々にして同じような偏った知識や価値観を持っている場合が多いのですので、外部の専門家が異なった視点から(リスクに限らず)評価に参画する価値は大きいと思います。