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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第26回:ゲートの運営(その19):事業評価(14)
「テーマへの取り組みでコア技術を鍛えるコア技術戦略」

(2013年1月28日)

 

セミナー情報

 

 前回は自社の強みの活用をゲートでの評価項目として利用する場合、将来の強みに基づくことの重要性と、特に技術に関しては「コア技術」について触れました。今回はこのコア技術を利用した「コア技術戦略」について議論をしたいと思います。

■コア技術とテーマとの双方向の関係
 前回は「現状」の強みではなく、「将来」自社が強みとしたい強みとの関連性を評価項目とするという議論をしました。また「コア技術」とは、将来自社が強みとしたい技術領域であると定義しました。

 つまり、自社の技術の強みがプロジェクトの成功確率を向上させるという期待以外にも、そのテーマに取り組むことで「将来」にむけてそのコア技術を「鍛え」強化するという面があるということです。コア技術とテーマはその貢献においてお互いに双方向の関係があるわけです。

■コア技術強化の2つの意味
 それでは、コア技術を利用したテーマに取り組むことで、そのコア技術はどう強化されるのでしょうか?

 まず1つ目です。前回もお話したようにコア技術とは、複数の要素技術から構成される技術領域です。例えば活性炭技術をコア技術とした場合、それは活性炭吸着技術やポーラス制御技術など複数の要素技術から構成されます。様々な活性炭技術を利用したテーマに取り組むことで、すでに保有する要素技術が強化され、同時に新しいテーマに取り組むことで従来保有していない要素技術を新に開発する必要が生まれ新しい要素技術が自社のコア技術に追加されていきます。

 2つ目に、その技術を使った用途分野に関するノウハウが蓄積されます。テーマ開発のプロセスの中でその段階でのアイデアや成果物を顧客に継続的に提示しフィードバックを得る過程、また市場投入後にその製品の顧客によるフィードバックを得る過程の両過程で、そのコア技術がどう利用者に価値を与え、利用者がその価値を享受する場面においてどのような点を重視するのかといった、その技術が実現する本来的な価値とその価値提供時に注意すべきことに関するノウハウを獲得することができます。このノウハウは様々な市場や業界に活用できるもので、実際に活性炭技術をコア技術としているクレハは、活性炭技術を医薬品やリチウムイオン電池の電極といった全く異なる用途に展開しています。

■コア技術とテーマとの双方向の関係が生み出す「模倣困難性」
 戦略論で他社との差別性を語るときに使われることばに「模倣困難性」があります。事業や製品を展開する場合に、能力面での他社との差別化要素を持つことは重要ですが、その差別化要素は簡単に模倣ができないものでなければなりません。それを「模倣困難性」と言います。

 上で説明したコア技術の2つの強化のポイントは、両者とも自社の模倣困難性を造るものです。自社のコア技術の領域を上のような活動を長年にわたり継続し、経験を蓄積することで、自社のコア技術に関わる技術を深化させ、他社に簡単に真似のできないレベルに高めることができます。同様に、そのコア技術の利用分野に関わる同様のレベルのノウハウを蓄積することができます。

■一石三鳥の「コア技術戦略」
 以上を整理すると、コア技術戦略を展開することで、
 ・コア技術の利用はテーマの成功の確率を向上させる
  (コア技術→テーマの成功確率の向上)
 ・コア技術を利用したテーマに継続的に取り組むことでコア技術が強化され模倣困難な
  レベルに高めることができる(テーマへの取り組み→コア技術の強化)
 ・同、コア技術の用途分野についてのノウハウが蓄積され模倣困難なレベルに高める
  ことができる(テーマへの取り組み→コア技術用途のノウハウ蓄積)
というように、一石三鳥が可能になります。

■強い「コア技術戦略」と「ステージゲート法」の相性
 ステージゲート法の本質の一つの側面に、不確実性を前提とし多数の(玉石混交)のテーマをステージゲートのファネル(漏斗)に投入することがあります。コア技術戦略に基づき創出した数多くのコア技術利用テーマを、このファネルへ投入することができます。一方、ステージゲートでコア技術利用テーマを数多く対象とすることで、コア技術を強化することができます。結果として「玉」ではなく「石」と判明し中止となる大半のテーマも、そのテーマに取り組むことでプロジェクトとしては成功しなくともコア技術の強化には貢献するのです。まさに前回紹介した3Mでは、失敗は成功の素と考え、失敗テーマのコア技術(3Mではプラットフォームテクノロジー)への貢献を前向きに評価しています。

 

参考文献
「MOT[技術経営]入門」延岡健太郎著(日本経済新聞社)