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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第23回:ゲートの運営(その16):事業評価(11)
「頭がちぎれるほど考え自社のドメインを決める」

(2013年1月7日)

 

セミナー情報

 

 新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 前回は、「ゲートは戦略意思確認の場」という議論をしましたが、事業評価では戦略との整合性は重要な評価項目となります。今回は、事業評価における戦略との整合性の評価について、実はステージゲート法以前の議論となってしまうのですが、そもそも論から考えてみたいと思います。

■戦略との整合性を評価に含めることについて

 ほとんどの方が、戦略との整合性をゲートでの評価項目に入れることについては、異論はないと言うと思います。しかし、本当に心底そのように理解していますか?世の中ではそのようにしているから、そうすべきなのであろうという程度の認識ではありませんか?

■日本企業の戦略の重要性の認識

 なぜ、このような投げ掛けをしたかと言うと、昨年以下のような状況に遭遇したからです。

 ある場で、企業経営の経験の長い方から、戦略にこだわっていたら革新的な製品アイデアなど出ないという意見がありました。また偶然同じ月にある日本を代表する有名企業を訪問しましたが、訪問先の企画部門の方から、自社の戦略にこだわっていたら市場の動きに取り残されてしまうという話がありました。

 日本でも経営における戦略の議論がされるようになってから二、三十年がたっていると思いますが、戦略の重要性とその経営における意味が、日本企業においては理解されていないようです。

 戦略とは、戦術つまり日々の行動を決定するための、企業のグラウンドデザインです。よほどのことが無い限り、戦略の方向に進まなければなりません。それが戦略の意義です。従って、上の二つの発言は、戦略が寄って立つそもそもの存在意義と矛盾していることになります。

■今日本企業がすべきこと:戦略の重要性を今一度認識すること

 戦略の重要性は、世の中でこれまで企業の経営者を含め多くの人達が長い間言い続け、「陳腐」に聞こえるかもしれませんが、戦略の重要性の今一度深く考え、認識することが、今日本企業に求められているのではないでしょうか。多くの日本企業の低迷の原因が(信頼できる)戦略の欠落にあります。一方でユニチャームしかり、信越化学しかり、コマツしかり、今世界市場で成功している日本企業には、間違いなく信頼できる明確な戦略があります。

■自社のドメインを「明確」に定義する

 戦略には、What、すなわちどこで戦うか、そしてHow、どう戦うかの二つの側面があります。両方とも重要ですが、そもそもWhatが明確でなければなりません。またステージゲート法においても、このWhatが明確であれば、テーマを評価することができます。

 多くの企業の戦略の問題は、このWhatが明確に定義されていないことです。例えば、新規事業において「環境」分野を自社のドメインとするという程度では、Whatを定義したとはいえません。なぜなら、環境の領域には膨大な多種多様な事業機会があるからです。もう一段も二段も下のレベルで自社のドメインを定義する必要があります。

■意義あるドメインを定義には「頭がちぎれるほど」考えなければならない

 ソフトバンクの孫正義をテーマにした「志高く」(井上篤夫著、実業の日本社)の中に、孫氏がソフトウェアの流通事業をドメインと決めるために、「私は頭がちぎれるほど考えた」とありますが、まさに信頼に値する自社のドメインを決めるには、「頭がちぎれるほど」考える必要があります。誰でも考えつくようなドメインでは、早晩厳しい競争になることは、今の世の中目に見えています。長期の期間に耐えられるようなものでなければ、自社のドメインとはいえません。自社が他社を圧倒する強みを持たない場合(多くの企業がそうであると思います)、なぜその分野を自社のドメインにしたか、少なくとも最初は他社からは良くわからないようなドメインを見つけることが理想です。

 信頼できる自社のドメインを設定できれば、そこに他社に先んじて集中的に資源投入をすることで、そのドメインにおいて強力な地位を築くことができます。また、ステージゲート法の視点からも、ステージゲートの前提であるテーマの「多産」がしやすくなります。

 戦略の明確化はステージゲート法の以前の議論ではありますが、ステージゲート法運営においても極めて重要な点ですので、ステージゲート法導入を機会に自社のドメインの明確化に取り組んではいかがでしょうか?