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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第18回:ゲートの運営(その11):事業評価(6)
「多くの企業が忘れている当たり前のこと:顧客は価値に対し対価を払う」

(2012年11月26日)

 

セミナー情報

 

 前回は11月17日(土)の日本経営工学学会の日本型MOT勉強会で議論を受けて、市場ニーズと提供価値の議論をしました。日本型MOT勉強会の場では、改めて多くの日本企業の顧客提供価値視点の問題を考えさせられました。そこで今回も事業評価の評価項目としても極めて重要な、この顧客提供価値について議論をしたいと思います。

■事業評価項目としての顧客提供価値の重要性:顧客は価値に対して対価を払う

 以前にも述べたように、ステージゲート法のゲートの役割は、徹底して事業の成功の視点から、テーマを評価することです。事業で成功する第一の要件は、顧客がその製品(プロジェクトの最終成果としての)に対し、価値を見出し対価を払ってくれることです。なぜなら、まずなによりも顧客が対価を払ってくれるのは、自社製品がもたらす価値に対してというきわめて「当り前」の事実があるからです。また、価値を見出してくれても、その提供価値により売上高や利益率は大きく影響されます。

 このように、顧客提供価値は事業評価の出発点であり、当然事業の評価項目にも顧客価値についての評価項目がなければなりません。これは革新的テーマであろうと、改善的テーマであろうと、その重要性は変わりません。

■ステージゲート法の大きな役割:顧客価値実現機会の発見とコンセプトへの翻訳

 顧客は価値に対し対価を払う点について、異論のある方はあまりいないと思います。しかし、実際の技術開発にしても製品開発にしても、この点が忘れがちです。それはなぜでしょうか?その理由は、適切な顧客価値提供機会を見つけ出す仕事は難しいからです。特に、革新的な製品であればなおさらです。結果的に、安易に他社製品の真似や顧客から直接の要求のあったテーマに取り組むということが起こるのです。

 実は、この問題に対処するために、どう顧客提供価値の機会を見つけるのか、それをどう確実な製品コンセプトに翻訳するのかについてのプロセスを示すのがステージゲート法のステージとゲートの重要な役割の一つなのです。このような視点からのステージの様々な活動は、これからのこのメールマガジンの中で説明するとして、今回はゲートに絞って議論をしたいと思います。

■ゲートでの評価項目と評価の為の知見

 以上の理由で、顧客提供価値については、ゲートでの重要評価項目になります。具体的な評価の質問事例としては以下の質問があります。

-提供顧客価値は明確か?
-当該製品・技術は大きな顧客価値を創出するか?
-当該製品・技術は長い期間にわたり継続的に顧客価値を創出するか?
-当該製品・技術が提供する顧客価値は新しいか?他社が既に同じもしくは他の方法で提供していないか?

 これらの視点からの適性な評価をするには、ゲートの評価者であるゲートキーパーは(そして創出価値を見極め、その実現のための計画を立て、それを実行するプロジェクトチームも)、顧客はどのような場合に価値を認識するかについても理解しておかなければなりません。

 顧客はどのような場合に、価値を認識するのでしょうか?それは、消費財と生産財とではかなり異なります。

 今回は生産財について、議論をします。

■価値はどのような場合に顧客によって認識されるか?:生産財の場合

 生産財の顧客がどのような場合に価値を認識するかは、経済的価値、すなわち収益への貢献に尽きます。その点は、経済性以外の点でも価値が認識される消費財よりも明確です。

 私は、生産財の価値提供分野を以下と考えるのが良いと考えています。

 生産財の価値提供は金銭的価値と非金銭的価値に分けることができます。金銭的価値は、顧客の全体コスト・リスクの低減、顧客製品の販売数量の拡大、顧客の製品売価の拡大に分けることができます。つまり、コスト・リスクが低減することができることと、売上が拡大することです。コスト低減と売上高拡大の方策は大きく異なります。非金銭的価値については、もちろん上で生産財では経済的価値につきると述べましたが、直接的に収益に結び付くものではないが、最終的には経済的価値をもたらす価値があります。それは、社内向けと社外向けとでは活動も異なり、顧客の『社内』のステークホルダーである人材・組織力の向上(例えば従業員の能力の向上)、そして顧客の『社外』のステークホルダーに対する社会的価値の向上(例えば、顧客の製品の環境対応性の向上)です。

 覚え易いように、私はこれらの価値提供分野をCUPOS(Cost、Unit、Price、Organization、Society)という名前をつけています。

 それぞれ5つの分野でどう顧客提供価値を実現するかについては、次回に議論したいと思います。