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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第5回:ステージゲート法とは(その3)

今回も、引き続きステージゲート法とは(その3)を議論したいと思います。

■ステージ3:開発
ゲート3を通過すると、いよいよ本格的な開発ステージに入ります。開発においては、様々な考慮事項があると思いますが、ステージゲート法において重要であるコンセプトをここで3つ程取り上げて、議論したいと思います。

○製品仕様の固定と変動についてステージゲート法においては、できるだけゲート3(ステージ3の前のゲート)で、製品仕様を固定することが推奨されています。「Winning at New Products(第4版)」の中では、サッカーに例えて、「ゴールの場所が動けば、点は入れられない」という例え話が述べられています。

つまり、基本的にはゲート3までに、製品仕様が固定できるように、前段階で徹底してフロントローディングを行い、ゲート3以降では、製品仕様を固定しないようにするというものです。しかし、徹底して、と言っても本当に徹底して行えば、永遠の時間が掛かります。その間に競合企業が先に進めてしまうというリスクは現実的にはあります。しかし、それでも、フロントローディングの部分を工夫して、できるだけ効率的に行い、期間を掛けずに製品仕様を決定するということを行うのです。これが、ステージゲートの基本哲学です。この点を十分理解してください。

しかし、一方で、現実論として、ゲート3で全てを固定することは、不可能です。そもそも、市場環境は不確実性なものです。製品仕様を固定しても、まさに「想定外」のことは現実には起こります(極力「想定外」のことが起きないように、前のステージで徹底してフロントローディングを行っても)。また、フロントローディングで顧客との対話の中で、顧客のニーズを引出す活動を行っても、製品がない段階で完全に顧客に製品のことを理解してもらうことは不可能ですし、顧客自身の市場環境も変化します。

従って、一部の製品仕様の変化は甘受、もしくは積極的に前提としなければなりません。

しかし、これをするためには、ゲート3(ステージ3の直前のゲート)で、何が固定され、何が変動するのかを明確に区分しておく必要があります。ステージ3において、固定された部分については、開発・設計を安心して前に進めることができますし、変動部分については、変動部分を固定化する作業(下の述べる顧客とのコンタクトを通じ)を重視して、活動をしなければなりません。

○顧客とのスパイラル(打てば響く)

そこで、開発過程においても、「打てば響く」を継続的に実行していきます。「打てば響く」とは、現状の段階で顧客に示すことができるもの、例えば、実験データ、製品仕様、製品の一部、モックアップ、試作品等を顧客に提示し、顧客からのフィードバックを継続的に受け、そのフィードバックを製品に反映するものです。この方法が有効である理由は、顧客は目の前に何かないと、適切なフィードバックができない、逆に言うと、何か目の前に具体的なものがあると、効果的に反応してくれるということがあります。

日本経済新聞(2012年1月26日朝刊)の記事に、NECの中央研究所の研究員が顧客ニーズ収集のために顧客を訪れ、「事業上どんな問題を解決したいですか?」という活動を始めたということが載っていましたが、研究者が実際の顧客とコンタクトを持つという点で、この活動は大変良い一方で、顧客にこのような質問を投げかけても、直ぐには適切な答えは返ってこない可能性は高いです。顧客も忙しいでしょうから、中には、「きちんと事前に調査をして来てくれ」という顧客もいるでしょう。(私も似たような経験をしたことがあります。)

むしろ、研究員の方から、「このようなことでお困りではないでしょうか?その解決策としてこんな方向を考えているのですが、どう思われますか?」と聞く方が有効です。ここで顧客のフィードバックを聞き、次回このフィードバックを反映させたなにかしらのものを持っていけば、顧客は関心を持ってくれるでしょうし、それ以前に、既に顧客はその製品に主体的に関与するとい経験をもっていますので(最初にフィードバックをしたことで)、二度目の面会も受けてくれる可能性は大変高いと思います。そもそも現実の世界では、顧客に面会してもらうということ自体簡単ではありません。

このような「打てば響く」の活動により、不確実な点を効果的・効率的に固定化していきます。また別の言い方をすると、その製品を効果的に進化させ、磨き上げる過程とも言えます。

ここで重要なのが、「打てば響く」の対象顧客を誤ると、また数が少ないと、後に「こんなはずではなかった」ということにもなりかねません。つまり、製品は最終的には顧客に売るのではなく、市場に売るのです。その顧客のニーズが市場を代表していなければ、最終的にはその顧客には一台売れるかもしれませんが、それで終わりです。ですので、市場を代表する顧客を「打てば響く」の対象としなければなりません。

また、秘密を守る、対象の顧客を見つけるというリスクや手間を考えると、顧客を良い関係のある顧客一社に絞りたいという誘惑に駆られると思いますが、これは上の面からも危険です。現実的には対象顧客の数はあまり増やせはできないでしょうが、もちろん製品にもよりますが最低でも3社(周到に選択した)は対象とすべきです。

○開発以外の活動

ステージ3は「開発」という名前が付いていますが、ここでの活動は、開発以外にも今後のマーケティング計画、生産・調達計画を精緻化するという作業をステージ2から継続して行います。前者については、上の「打てば響く」の活動から、顧客や市場の状況がより明確になってきますので、より具体的、もしくはよりイノベーティブなマーケティング計画(戦略)が発想・策定できるようになります。また後者については、実際に重要部材や材料の調達元とのコンタクト、場合によっては共同開発のような活動もステージ3の中で発生したり、ステージ3の後半では、リードタイムの長い生産設備などに関しては、設備の決定と調達が実行に移される場合もあります。