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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第3回:ステージゲート法とは(その1)

第1回、第2回はステージゲート法の全体像のお話をしましたので、今回からは、もう少し各論に入って生きたいと思います。

■ステージゲートの構造
ステージゲートは、「アイデア創出から上市までのプロセス・システム」という定義がなされています(「Winning at New Products」(第4版)ロバート・G・クーパー著)。つまり、技術なり製品なりのテーマの創出活動が始まり、それが製品化され市場に導入(上市)されるまでの一連のプロセスのことを言います(ただし、これは基本の定義であって、より拡大して解釈することについてはかまわないという柔軟性を持つものです)。

このプロセスをステージゲートプロセスと言いますが、その構造はステージゲートという名前がついている通り、複数のステージ(活動)とゲート(関門)から構成されます。本格版のステージゲートプロセスは、「Winning at New Products」(第4版)では、以下の構造となっています(規模の大きなイノベーティブな製品を生むためのプロセス)。

○発見ステージ:アイデア創出

□ゲート1:アイデアスクリーニング

○ステージ1:初期調査

□ゲート2:第2回スクリーニング

○ステージ2:ビジネスケースの策定

□ゲート3:開発へ

○ステージ3:開発

□ゲート4:テストへ

○ステージ4:テストと検証

□ゲート5:上市へ

○ステージ5:上市

□上市後レビュー

この他に、製品改良等の既存製品の延長戦上のテーマには、簡易版が用意されています。また技術開発テーマや技術プラットフォームには、別のプロセスがあります(最終的に上のプロセスの途中にアウトプットされる構造になっている)。

それでは、それぞれのステージおよびゲートでの活動の概要を説明したいと思います。

●発見ステージ:アイデア創出

このステージは、テーマとなるアイデアを創出するステージです。ステージゲート法は以前のバージョンでは、この部分は対象外となっていましたが、新たに追加されたものです。

私は、以前より研究開発において、「Garbage in, garbage out(ごみを入れるとごみしか出てこない)」が大きな課題であると言ってきました。これはコンピュータがいくら優れていても、入力が誤っていれば(ごみ)、計算結果は誤り(ごみ)しか出てこないことを言ったものですが、研究開発についてもまさに当てはまります。いくら頭脳明晰で優秀な研究者でも、対象とするテーマがごみであれば、研究成果もごみである(表現が極端で失礼に当たるかもしれませんがご容赦ください)という、ごく当たり前のことです。

もちろん、研究開発に携わっている方々はこの点は百も承知ですが、実際に研究開発投資の中に占めるテーマ選定への活動への投資割合は、極めて低いといわざるを得ません。超高収益で有名なキーエンスは、明らかにテーマ創出・選定に研究開発費と比べても相当な額の投資が行われています。

このような本質的な研究開発活動の課題もありますし、日本企業におけるステージゲート法運用上の大きな課題の一つが、アイデアの数自体が少ないこと問題でしたので、この追加は歓迎すべきものです。どのようにアイデアを創出するかについての具体的な内容については、別の機会に詳細に議論をしたいと思います。

■ゲート1:アイデアスクリーニング

発見ステージで、願がわくば数多くのアイデアが出されたものを、この最初のゲートで評価をします。この段階では、アイデア自体を精緻に評価するデータは、そのテーマが自社にとって新しければ新しいほど(つまりイノベーティブであればあるほど)ありません。一方で、重要な顧客からの開発依頼などの場合は、極めて明確な情報があります。

従って、ここでの評価基準は極めて重要です。後者を評価するような基準を作ってしまうと、将来大きな製品、事業になるようなイノベーティブなテーマはこの初期の時点で、早々に切られてしまいます。その代わり、既に顧客がついている顧客からの開発以来は、どんどん前に進められるわけです。基本的にステージゲートは、イノベーティブな製品や技術を創出することを主目的としたものであり、前者を対象とした評価基準、にすべきです(後者については、別の基準を設ける)。

ここでのポイントは、何のために評価するかですが、その目的は、ある程度の予算をつけて、次の初期調査(ステージ1)をするかどうかを決めるものです。全ての創出、提案されたテーマの(初期)調査を行うには、数が多ければ大きな費用と人員が掛かってしまいます。

加えて、ゲートでの評価者(ゲートキーパーと言う)は、このテーマを進める上での、アドバイスをすることが重要となります。更に、将来このテーマが事業部門に引き渡され、事業化、商品化がされる場合に、スムーズにその活動が行われるために、それら部門の人たちを巻き込み、コミットメントを醸成するという意味もあります。

ゲートの運営法および体制については、別途機会を改めて、議論したいと思います。

●ステージ1:初期調査

ここでは、ゲート1を通過したテーマについて、短期間のクイックな調査を行います。調査の対象は、市場面と技術の実現性の面から調査を行います。市場については、公開情報の調査と一部の潜在顧客および関係者へのインタビューが含まれます。技術の実現性については、公開情報および社内の関係者とのディスカッション等により行われます。

ポイントは、費用や人員をあまり掛けずに、クイックの調査を行うことです。この活動により、想像だけで提案されていた(イノベーティブな)テーマについて、その可能性や魅力について相当のことが分かるようになります。

■ゲート2:第2回スクリーニング

ステージ1で行った調査により、そのテーマについてかなりのことが分かりますので(より確かな「想定」を含め)、それらの情報に基づき、テーマの評価を行います。

テーマの評価には大きく分けて3つの項目があります。まず、具体的な内容の評価以前に、ステージ1で行った活動が適当で、得られた情報には信頼性があるかどうかという評価。そして、実際の内容についての評価。そして提案された次の活動(ステージ2)の計画の評価です。

従って、これらのゲートでの評価項目が評価できるようなデータ・情報を決められたフォーマットに則り、担当者(この時点までにプロジェクトチームが編成されている)は、ゲート向けにステージ1の中で準備する必要があります。

この評価の結果は、次のステージへの「ゴー」、中止の「キル」、そして前ステージの活動が不十分であれば、「差し戻し」があります。「ゴー」の場合には、次のステージの活動の予算および実行する人員が承認されます。注意点として、予算が承認されるのは、次のステージのみです。全体の予算ではありません。

●ステージ2:ビジネスケースの策定

ゲート2を通過したテーマは、このステージでビジネスケースを策定することになります。ビジネスケースとは、簡単に言うと製品展開計画書です。この計画書に含まれるのは、
・製品コンセプト(対象市場セグメント、ポジショニング、顧客への提供価値、製品の特徴、仕様等)
・なぜこのテーマは自社の対象とする価値があるのか(期待されるリターンとリスク・コスト)
・それはなぜか(具体的な根拠)
・今後の計画(次ステージの詳細計画、上市までの活動計画、上市後の展開戦略)
です。

次のステージ3は実際の開発活動に入りますので、相当の投資が発生します。その為、その投資をするに値するテーマなのかを評価するための、情報を集め整理し、それに基づき自社の展開戦略・活動を策定するものです。従って、財務面での計画もきちんと立てることが求められます。

従って、ステージ1での初期調査をさらに精緻化をするという作業を行います。特に、市場や競合に関しては、相当の情報を集め、実際にかなりの数の顧客の意見を反映させるという活動が行われます。

これまの、多くの企業において、この点がおざなりにされ、開発が進んでからこのような活動を行っていました。しかし、ステージゲートの中心となる特徴の一つが、開発という大きな投資を伴う判断をする前に、徹底して調査を行い、計画をきちんと立て、本当に勝てそうなのかを見極めた上で、投資判断を行うことです。特に、近年競争が益々激化し、上市の時期を早めることが大きな戦略上の重要課題となる中、どうしても開発を先行し、上市の時期を早めようという方向に行きがちです。ステージゲートは、そうではなくて、事前の宿題(ホームワーク)をきちんと行うことで、良い製品(市場に需要があり、大きな顧客価値を提供するもの、そして競合他社に対し強力な差別化点があること、もしくは競合品すらないこと)を出し、加えて、その方が結局は、上市時期が速くなる(やり直しを回避する)ことになると考えるものです(この点については、数多くの企業研究から出されたきちんとした根拠基づいています)。

□「ゲート3:開発へ」以降は、次回に引き続きお話をします。